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大阪地方裁判所岸和田支部 昭和44年(ワ)192号 判決 1972年7月03日

原告

大木谷広幸

ほか一名

被告

坂上新造

ほか二名

主文

被告末吉は、原告広幸に対し、二、一九七、〇四五円およびうち一、八四七、〇四五円については昭和四二年八月七日から、うち三五〇、〇〇〇円については昭和四七年六月八日から、いずれも支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。

被告末吉は、原告喜美子に対し、一、六四三、七〇〇円およびこれに対する昭和四二年八月七日から支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告末吉に対するその余の請求および被告新造、同トモエに対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告らと被告新造、同トモエ間に生じた部分は原告らの負担とし、原告らと被告末吉間に生じた部分はこれを四分し、その三を原告ら、その余を被告末吉の各負担とする。

事実

一  原告ら訴訟代理人は「被告らは、連帯して、原告広幸に対し、七、一三七、六二三円およびうち六、六三七、六二三円については昭和四二年八月七日から、うち五〇〇、〇〇〇円については昭和四七年六月八日から、いずれも支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。被告らは、連帯して原告喜美子に対し、五、六九三、八八一円およびこれにつき昭和四二年八月七日から支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因等として次のとおり述べた。

(一)  昭和四二年八月六日午前一〇時三〇分頃泉佐野市日根野村五七九番地先の府道土丸栄線において、被告末吉(当時一六才)が軽四輪貨物自動車を運転して東進中、路傍のコンクリート構築物に激突し、助手席に同乗していた大木谷幸夫(当時一六才)が頭部打撲頭蓋骨々折兼脳挫滅の傷害を受けて即死した。

(二)  被告末吉は、無資格で未熟運転をし、ハンドル、ブレーキ操作不適当の過失により、右事故を発生させたのであり、また被告新造、同トモエは、被告末吉の両親であつて、被告末吉と起居を共にし、堺経理高校に通学させていたのであるが、被告末吉に対する監督義務を怠つたため本件事故の発生を見るに至つたのであるから、結局被告ら三名は、共同不法行為者として、連帯して損害賠償をなすべき義務がある。

(三)  原告らは、大木谷幸夫の両親(幸夫は一人息子)であり、幸夫の死亡により、その権利義務を二分の一ずつ相続した。

(四)  本件事故による原告らの損害は、次のとおりである。

(1)  遺体処置料(原告広幸負担) 七、四〇〇円

(2)  幸夫の逸失利益 六、八八七、七六三円

幸夫は当時OK自動車塗装工業所に勤務して、月二四、〇〇〇円の収入を得ていた。同人は、右業務に六三才まで就労し得た筈である。そこで右月給に、昭和四三年六月三〇日現在の労働者賃金構造基準統計資料、自動車整備工平均賃金表による昇給率を乗じたもの(ただし三五才までとし、以後はそのまま)から生活費五割を控除し、ホフマン方式で中間利息を控除すると、幸夫の逸失利益の事故当時の現価は、前掲の金額となる。

(3)  慰藉料

(A) 原告広幸分 一、五〇〇、〇〇〇円

(B) 原告喜美子分 一、五〇〇、〇〇〇円

(C) 幸夫分 一、五〇〇、〇〇〇円

(4)  救助捜索費、葬祭費(原告広幸負担) 五八六、三四一円

(5)  弁護士費用(原告広幸負担)

(A) 着手金 三五〇、〇〇〇円

(B) 報酬金 五〇〇、〇〇〇円

(6)  弁護士費用については弁論終結の日から、その余の損害金については事故発生の日の翌日から、いずれも支払の済むまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五)  被告ら主張事実(二)のうち本件自動車が盗難車である事実は認めるが、その余は争う。

二  被告ら訴訟代理人は、請求棄却、訴訟費用原告ら負担の判決を求め、答弁等として次のとおり述べた。

(一)  原告主張事実(一)のうち、被告末吉が運転しており、幸夫が助手席に同乗していたとの点は争うが、その余は認める。当時幸夫が運転しており、被告末吉が助手席に同乗していた。同(二)、(三)のうち身分関係は認めるが、その余は争う。同(四)は争う。

(二)  本件自動車は、幸夫ほか二名が他から窃取して来たものであり、幸夫が被告末吉および武仲美智子を誘つてドライブに出て本件事故を惹起したのである。したがつて本件事故発生当時被告末吉が運転していたとしても、同被告は、幸夫に強いられ、または少くとも幸夫から一時許可を得て、運転していたものであつて、幸夫はなお運転者たる地位を失つてはおらず、被告末吉の危険な運転を差止め得た筈であるから、幸夫の過失割合は、九割以上と考えるべきである。また被告新造、同トモエが本件につき責を負うべきいわれはない。

三  〔証拠関係略〕

理由

一  原告主張事実(一)のうち、何びとが運転し、何びとが同乗していたかの点を除いては、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を綜合すれば、事故発生当時の運転者は被告末吉であり、座席中央に武仲美智子、左端に大木谷幸夫が乗車していたこと、被告末吉は無免許であつて、時速六〇粁位で蛇行運転をしたうえ、左側道路外のコンクリート構築物に車を激突させたこと、そのため幸夫が死亡し、武仲、被告末吉も重傷を負つたことを認めることができる。〔証拠略〕中、右と牴触する部分は採用できず、他に反証はない。また原告らが幸夫の両親であることは、当事者間に争いがなく、同人らが幸夫の権利義務を二分の一ずつ相続したものと推認することができる。

二  してみると、被告末吉は、民法七〇九条により、右事故による原告らの損害を賠償する義務があるが、〔証拠略〕によれば、同被告は堺経理専門学校に在学中であつたことが認められ、また同被告が当時一六才であつたことは当事者間に争いがないから、もとより同被告は行為の責任を弁識するに足る知能を有していたものと認めることができ、したがつて同被告の両親たることにつき争いがないとはいえ、被告新造、同トモエには、賠償義務が存するとはいえない。

三  ところが〔証拠略〕を綜合すると、本件自動車は、事故の数日前大木谷幸夫が他の友人とともに和歌山で窃取して来たものであつたが(本件自動車が盗難車であることについては、争いがない)事故当日幸夫が友人である被告末吉と武仲美智子とを誘つてドライブに出、被告末吉が運転中にこの事故の発生を見たことが認められる。〔証拠略〕中には、被告末吉が、幸夫に運転の交替を強要して自ら運転したかの如き記載が存するが、右部分はたやすく措信できない。してみると本件事故発生の原因の一半は、幸夫自身に存するのであるから、後記のとおり、遺体処置料、逸失利益、救助捜索費、葬祭費については被告末吉をしてその二分の一を賠償せしめるのが相当である。

四  そこで賠償の額について審究することとする。

(一)  遺体処置料

後記救助捜索費、葬祭費とともに算定する〔証拠略〕

(二)  逸失利益

〔証拠略〕を綜合すれば、幸夫は昭和四二年六月清風高校を中途退学し、同月一五日から日給一、〇〇〇円で、OK自動車塗装工業所に雇われていたことが認められ、また右職種においては月二五日は稼働するものと推認することができるから、同人の事故当時の月収は二五、〇〇〇円、うち半分を生活費として費消するものと推認することができるので、逸失利益は月額一二、五〇〇円、年額一五〇、〇〇〇円であると推認することができる。ところで、幸夫が当時一六才であつたことは当事者間に争いがないから、なお四七年就労し得たものと推認することができ、この場合の年五分の割合によるホフマン係数は二三・八三二であるから、一五〇、〇〇〇円に右係数を乗じて得た三、五七四、八〇〇円が、事故当時の幸夫の逸失利益の現価である。ところで前記三に説示したとおり、うち二分の一、すなわち一、七八七、四〇〇円を被告末吉をして賠償させるのが相当であり、したがつて各原告の請求し得る分は、その二分の一、すなわち八九三、七〇〇円となる。

(三)  救助捜索費、葬祭費(遺体処置料を含む)

〔証拠略〕を綜合すると、右費用は、四〇六、六九一円であり原告広幸の出捐にかかるものであることが認められる。前記三に説示したとおり、うち二分の一、すなわち、二〇三、三四五円を被告末吉をして賠償させるのが相当である。

(四)  慰藉料

本件の事実関係に鑑み、原告広幸、原告喜美子、亡幸夫の慰藉料は、各五〇〇、〇〇〇円と解するのが相当である。したがつて原告両名についていえば、幸夫から相続した分を含め各七五〇、〇〇〇円となる。

(五)  小計および弁護士費用

前記のうち、原告広幸分を集計すると、(二)、(三)、(四)の計、すなわち一、八四七、〇四五円となり、原告喜美子分を集計すると、(二)、(四)の計、すなわち一、六四三、七〇〇円となる。これを訴求するにつき不可欠の弁護士費用は三五〇、〇〇〇円と解するのが相当であり、〔証拠略〕によれば、右は原告広幸の負担に帰するものと認められるから、これを前示原告広幸分に加算すると二、一九七、〇四五円となる。

五  してみると、被告末吉は、原告広幸に対し、二、一九七、〇四五円およびうち弁護士費用三五〇、〇〇〇円については、弁論終結の日であることが記録上明らかな昭和四七年六月八日から、その余の損害金一、八四七、〇四五円については、事故発生の日の翌日である昭和四二年八月七日から、いずれも支払の済むまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があり、また同被告は、原告喜美子に対し、一、六四三、七〇〇円およびこれに対する前示昭和四二年八月七日から支払の済むまで前同率の遅延損害金の支払をなすべき義務があるから、原告らの同被告に対する請求は、右の限度において正当として認容すべく、その余は失当であるから棄却することとし、また原告らの被告新造、同トモエに対する請求は、いずれも失当であるから棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条に則り、主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言は、これを付することが相当とは認められないので、付さない。

(裁判官 乾達彦)

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